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2010.05.18 サイエンスブリッジニュース

SBN006_蚊には悪気はないのだけれど

夏のレジャーに欠かせないのが「虫よけスプレー」ですね。しかし最近、虫よけスプレーに含まれる虫よけ成分「ディート(DEET)」の効かない蚊が出現し、その性質は子孫にも伝わることが判明しました。

ディート(ジエチルトルアミド)は、植物の化学成分の研究をもとに開発され、病気を媒介するカやダニなどを寄せ付けない効果を発揮します。なぜディートが虫よけの効果を発揮するのかは、詳しくは解明されていませんが、今回の研究チームの一員で、イギリスにあるロザムステッド農業試験場の化学生態学者ジェームズ・ローガン氏によると、蚊のメスが産卵のために必要な血液を狙っている時期には、逆に、普段の食物である樹液や花の蜜など、植物のにおいに対して反応しなくなる性質を利用しているといいます。そのため、ディートのにおいがする人を、メスの蚊は植物であると勘違いして、産卵期の蚊が寄ってこなくなるそうです。

しかし今回の研究で一部のネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)が、ディートの虫よけ剤を塗った人からも、塗っていない時と同じように吸血するようになったと判明しました。ネッタイシマカはデング熱や黄熱病を媒介する種です。調査の結果、遺伝子の変異により、蚊の触角にある感覚細胞がディートを感知しなくなっていたことがわかりました。そしてこの変異型同士で繁殖が進むと、ディートが効かない蚊の比率が一世代で13%から50%へ増加したといいます。ただし今のところ、ディートが効かない蚊の交配相手はほとんどが従来型で、しかも大量に存在するため、心配する必要はないと、ローガン氏は語っています。

蚊が「人を困らせてやろう」と考えているわけではないのでしょうが、自然と蚊自身、有利な性質を身に付けていくものなのですね。

ナショナルジオグラフィック日本語版より http://bit.ly/SBS100518

この研究結果は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に5/3付けで掲載されています。