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2010.06.01 サイエンスブリッジニュース

SBN008_毛が毎日抜けても大丈夫な理由

お風呂で髪を洗っているとき、髪の毛をくしでとかすとき。毎日たくさんの髪の毛が抜けているのを目にしますよね。このまま抜け続けていたら、髪の毛がなくなってしまうのではないかと心配になりますが、すぐになくなることはありません。実は、私達の『毛』は、ある程度の期間伸びると抜けてしまい、その後同じ毛穴から新しい毛が生えてきます。毛穴の奥の毛根を包み込んでいる部分のことを毛包といいますが、ここは毛髪を支えたり新しい毛髪を生み出したりする大切な場所です。この毛包の中に、新しい毛髪の元になる細胞があります。この細胞のことを毛包幹細胞と言います。

表皮の細胞などは、紫外線や化学刺激などの外界からの様々な刺激にさらされると、DNAに異常が生じて死んでしまいます。しかし毛包幹細胞は、同じような刺激にさらされても死んでしまうことなく、再び新しい毛髪などを生み出していきます。なぜ、毛包幹細胞は死んでしまわないのでしょうか?『Nature Cell Biology』のホームページ上にて5月16日に公開された論文では、その理由と仕組みが明らかになったと発表されました。

実験的に毛包幹細胞に紫外線や化学物質による刺激を与えると、Bcl-2というタンパク質が細胞の中で増え、もともと細胞が持っている自殺を促すプログラムの発動を止めます。それと同時に、毛包幹細胞の中では、細胞に起きた異常の治療(DNAの修復)が急速に行われることがわかりました。その結果、毛包幹細胞は異常化せずに、再び新しい毛髪を作り出すことができるのだと結論付けています。毛包幹細胞には、大事な毛髪を常に作りだし続けるための、特別なしくみがあったのです。毎日たくさんの髪の毛が抜けても毛がなくなってしまわないのは、この毛包幹細胞の力強い生命力のお陰なんですね!

論文の全文はこちらhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2665733/ (英語)