2010.09.08
サイエンスブリッジニュース
SBN021_ラットの臓器がマウスでできる?!
「iPS細胞」を知っていますか?新聞やテレビなどで、聞いたことがあるかもしれませんね。2006年に日本人研究者が世界に先駆けて作り出した細胞で、体中のいろいろな細胞に成長することのできる「多能性」をもつ細胞のことです。この細胞は世界中が注目し、研究されていますが、日本はこの分野のトップを走っている国のひとつ。ここから新しい成果がまた、2010年9月3日発行の科学雑誌『Cell』に発表されました。東京大学の中内啓光教授のグループによると、マウスの体内に別な種類の動物(ラット)の膵臓を作り出すことができたというのです。これまでは、同じげっ歯類でありながらマウスとラットの両方の細胞を持つ「キメラ動物」を作り出すことさえ難しかったのですが、iPS細胞を使うことで、マウスの体の中の特定の臓器まるごとをラットの細胞で置き換えることができるようになったのです。
大人のラットの細胞から作り出したiPS細胞を、遺伝子操作により膵臓が作れなくなった「Pdx1ノックアウトマウス」の受精卵に注入し、この受精卵を仮親マウスの子宮に入れました。すると、「Pdx1ノックアウトマウス」は膵臓が作れないにもかかわらず、産まれてきたマウスには膵臓があり、その膵臓はラットの細胞でできていたのです。さらにこのラットの膵臓は、マウスの体内できちんと機能していることがわかりました。
この方法を応用すれば、ヒトの臓器を他の動物で作り出すことも夢ではないと考えられています。未来の医療を大きく変える研究成果を、いま私たちは目の当たりにしているのかもしれないですね。
参考:JSTホームページ http://www.jst.go.jp/pr/announce/20100903/