SBN027_ノーベル化学賞発表!
自由自在に望みの物質を合成することは、化学者にとって永遠の夢です。身近にある多くの有機物は人工的に合成されていますが、それらを作る過程においてはいくつもの試練が待ち構えています。今回のノーベル化学賞は、その困難を乗り越えて夢に近づく発見をした3人の化学者に与えられました。
2種類の有機物をくっつける反応を「クロスカップリング」といいます。その中でも有機物中の炭素と炭素をつなげることは、特に難しい反応とされています。今回の主役である金属・パラジウムは、起こりにくい反応を促進する「触媒」の働きをもつ物質として知られており、3人の化学者は従来では困難であった炭素と炭素の結合形成を、パラジウムを用いることで達成したのです。1970年代に発見されたこれらの化学反応は合成化学の進展に大きく貢献するだけでなく、世の中にも広く活用され、医薬品や化学製品合成の幅を飛躍的に広げました。
万能かのように聞こえるパラジウム触媒ですが、水が入ると触媒の機能が失われてしまうなど、実際の取扱いは難しい面もあります。この難しい素材を研究した彼らの苦労は計り知れないものですが、達成した時の喜びもまたそんな彼らにしか味わえないものに違いありません。化学者たちは「この物質を作りたい」という思いを胸に、日々研究に取り組んでいます。今回のノーベル化学賞受賞は、このような化学者の夢を実現させた物語の1つだったのではないでしょうか。
<参考文献>①Press Release http://nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2010/press.html
②Popular Information http://nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2010/info.html
③King, A. O.; Okukado, N.; Negishi, E. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1977, 683-684.
④Negishi, E.; King, A. O.; Okukado, N. J. Org. Chem. 1977, 42, 1821-1823.
⑤N. Miyaura and A. Suzuki, J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1979, 866.
⑥R. F. Heck and J. P. Nolley, J. Org. Chem. 1972, 37, 2320