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2016.04.22 冊子『教育応援』コンテンツ

現場での体験から自立した学びが始まる 山藤 旅聞

都立両国高等学校の生物担当教諭である山藤先生は、学校の授業にとどまらない現場を重視した教育に取り組む。その最たる例が、昨年の冬休みに実施した「ボルネオ島 サバ州生物多様性と日本との繋がりを学ぶツアー」だ。現場に直接行き、そこで体験することが大事だと語る先生に、話を伺った。

現場での体験から問いが生まれる

「実物をじっくり観察していると、自然にたくさんの疑問がわいてきます。自分で疑問をつくることで、知りたいという探求心が生まれ、そこから学びが始まると思うんです」と先生。できる限り「現場での体験」から始めるのが先生のこだわりだ。先生の生物の授業は、実験・観察を多く取り入れるのはもちろん、野外実習も何度も実施している。観察も実習も、「自分が気になったことをできるだけたくさん記録しよう」とだけ伝えて始まる。実習後、生徒が観察したことを肯定文として書き出し、次にそれを疑問文に変える。例えば、肯定文として「磯で青い貝を見つけた」と書いた場合、その疑問文として「なぜ磯の貝は青いのか?」と書き変えることができる。「現場の体験を通じて見つけた問いに向けて、みな楽しそうに学んでいます。学習は本来、楽しいことですよね」と先生は語る。

きっかけは、自分自身の衝撃的な体験

 現場を重視する先生が、昨年始めた大きな挑戦が「ボルネオ島 サバ州生物多様性と日本との繋がりを学ぶツアー」だ。このツアーを企画したきっかけは、先生自身のボルネオ島での体験がある。ボルネオ島はアジア最大の熱帯雨林をもつ東南アジアの島で、豊かな生物多様性を保持している。しかし、その多様性を崩すほどの環境破壊が進んでいる。その原因の一つにカップ麺、スナック菓子などに利用される植物油(パーム油)生産のために、大規模なアブラヤシプランテーションの開発が進んでいる。私達の生活の様々なものに用いられている植物油は、自然を破壊することによって得られているものなのだ。先生はその環境破壊の現場を目の当たりにし衝撃を受けた。さらに現地では100本の植林も行ったが、熱帯雨林特有の表層が薄く、すぐに粘土質になる土壌に苦戦。植林の大変さを身をもって感じる経験をした。さらには、現地のホテルでは、生計を支えるために、独学で英語を習得し働いている子ども達とも出会った。「ボルネオに行き、知識で『知ること』と、現場で体験して『わかること』には大きなギャップがあることを思い知りました。現場に行かないとわからないことがこんなにもたくさんあるので、中高生達にもこの体験をしてもらいたいと考え、ツアー実施に向けた企画を始めたんです」と先生は語った。

触れたことで得られた中高生の学び

 2015年12月26日、先生は都内の高校及び中高一貫校に呼びかけ集まった27名の中高生と共に、ついにボルネオ島に降り立った。4泊6日のボルネオ島スタディー・ツアーだ。そこでは、アブラヤシプランテーションの見学、植林体験、野生動物や昆虫の観察など自然と触れ合う体験を多く行った。「生徒達は時間を忘れて動植物を観察し、心の底から大自然を楽しんでいました」と先生は語る。また自然体験に加えて、現地の同年代の子ども達との交流も行った。濃密なスケジュールで睡眠時間も少ない中、夜中まで英語でディスカッションが続いたという。帰国後は「英語は絶対に必要だ」と意気込む生徒が多くでてくるようになった。

 ツアー後の生徒の感想には、「これまで普通に思ってきたことに対して疑問を抱くようになった」「ヒトは壊す生き物だが、未来を考えて創ることもできることを知った。将来は自然保護に関わりたい」「現地の学生がプランテーションをやっている家の子だと帰国後に知った。そこまで踏み込んで会話ができなかった自分へのもどかしさがある。今後もつながり続けたい」という意見がみられた。ツアーの中で、自身の考え方や価値観に変化を与える、学びを得ていたのだ。「僕ら教員は本物にこだわり、未来を創る生徒達にたくさんの『場』を与えるべきだと思います。また、人と人とのつながりが学びを広げ、次の行動につながるということを感じています。まずは1年だけと思っていましたが、今はこのツアーを、後10年は継続させようと強く心に決めています」と先生は語った。

東京都立両国高等学校:http://www.ryogoku-h.metro.tokyo.jp/

記者コメント:中島 翔太

山藤先生が生徒に伝える「現場を体験し、問いを立て、学んでいく姿勢」は、生徒たちが社会に出ていったとしても役に立つ、大変重要な力だと思います。山藤先生の教育活動を今後とも応援していきたいと強く感じました。