未来を見据えて知を結ぶから、技術も人も共に育つ 嶽本 あゆみ
課題研究が推奨される中、生徒と共に教員自身も研究テーマをもって進めることが増えてくるかもしれない。大学での研究を経て4年前に沖縄高専へ赴任した嶽本先生。大学からの自分の専門でもある最先端の研究に生徒と一緒になって取り組み、学校現場で教育と研究を両立するスタイルを始めている。
最初は自身の研究とは別のテーマを設けていた
高専に赴任した当初、嶽本先生は自分の研究テーマとは違う課題研究のテーマを生徒に投げかけていた。「瞬間的高圧処理(いわゆる衝撃波)を用いた米粉の製粉装置の開発」という自身の研究テーマは生徒には難しすぎると思っていたからだ。しかし、1年生の中に一人だけ衝撃波による生き物への影響に興味をもつ生徒がいたため、過去の研究結果で気になっていた副次的な成果「殺菌効果」を調べてもらうことにした。その生徒は、実験器具の使い方や研究の進め方を教えると、予想を超えて研究に没頭していった。
未来を見据えた研究だから技術と人が育つ
大学レベルの研究テーマに、最初はおぼつかなかった生徒も徐々に一人で研究を進められるようになっていった。「控えめな性格の生徒でしたが、実社会に役立つリアルな研究を自分で進めているという自信から見違えるように積極的になっていきました」。米粉の芽胞は高温でも殺菌が難しく、まれに大勢の食中毒も引き起こす社会的な課題でもある。生徒の研究は、殺菌効果を堅実な実験により証明し、電子顕微鏡写真でその殺菌メカニズムについて新しい見解も加えた。この成果は2015年12月6日に行われたサイエンスキャッスル東北大会で審査員特別賞を受賞し、また同月8日〜10日の先進材料についての学会「第25回日本MRS年次大会」でも発表された。この技術を用いた製粉装置はすでに販売が決まっており、2年間の研究はその殺菌効果の証明にも一役買ったことになる。
ポイントは知と知をつなぐパターンの違い
「今後は生徒と一緒に研究を進め、生徒の成長だけでなく、研究も発展できるように進めていきます」という嶽本先生。その考え方に至ったのは、研究を一方的に教える対象だと思っていた生徒それぞれに「自分とは違う知識の結び付けパターン」があることに気づいたからだ。生き物への興味と衝撃波を結びつけ新たな発見をした生徒はその一例だ。その他にも、嶽本先生が別々の研究と考えていた、「果実の破砕によるマーマレード作り」と「芽胞の殺菌」という2つのテーマを「どっちもやってみたい」という生徒も現れた。「なんとか同時にできないかと考えていくうちに、ハチミツというテーマが見つかりました。ハチミツは、ボツリヌス菌の芽胞があり乳幼児は食べられないのが通例だったが、殺菌が可能になるとローヤルゼリーなど高い栄養価の食品を幼児でも摂取できるかもしれないのです」。最近では、ただ研究するのではなく、その研究がどのような未来をつくるかについても学生と議論し始めているという。センター試験もなくなり、知識獲得型から知識活用形の学習へと変化する時代に、嶽本先生の研究と人を共に育てるスタイルが一つの指針になるかもしれない。
記者のコメント:伊地知 聡
なぜ研究者が学生と一緒に研究をすると、研究も人も育つのか。私自身が探していた考え方のヒントが、今回の取材で見つかった気がしました。これからも様々な教育、研究の現場に出向き、知識を知識を結びつけることで人も技術も育つという仕組みをより鮮明にしていきたいと思います。