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2016.04.26 冊子『教育応援』コンテンツ

正しき道標は、自らの中に 〜生徒の“好き”を育て、未来をつくる科学教育

2015年12月、サイエンスキャッスル関東大会表彰式、ポスター特別賞を受賞し喚起に湧くチームがあった。和歌山信愛高等学校科学部だ。彼女達は数年前までは研究活動に本格的に取り組んだ経験は少なかったという。その躍進の理由はどこにあったのか? 科学部を指導する馬場先生と、理科教科を指導する佐藤先生にお話を伺う中で、新しく求められる教員の役割が見えてきた。

興味を伸ばすために

 同校は、充実した英語教育が特徴だ。その一方で、理数系が苦手な生徒が多いことが課題であった。「苦手なものをやらせるのではなく“好き”をつくり、追求できる環境をつくりたい」。これが理科教員達の目標であった。当時、科学部のメインの活動は時々集まって実験をすることであり、学年間の交流もあまりなかったという。変わるきっかけとなったのは、ある生徒がつぶやいた「なにか栽培してみたい」という一言だった。学内で野菜を栽培することもできたが、佐藤先生は企業や大学などが行う様々なプログラム募集を調べ始めた。「企業の研究員として働いた過去の経験から、最先端の情報は外部に取りに行かないと手に入らないと実感していました」と先生は話す。そして国産の超強力小麦である「ゆめちから」の栽培研究プログラムを見つけ、馬場先生や生徒と相談の上、参加を決めた。

屋上で小麦の栽培研究に挑戦した。

屋上で小麦の栽培研究に挑戦した。

“好き”を体現することで変わる生徒の意識

 栽培研究は実は部を指導する馬場先生にとっても初めての試みだった。「自分がやりたいと思うものでなければ生徒には薦めません。だから誰よりも小麦一色だったかもしれません」と当時を振り返り先生は笑う。生徒の“好き”から始めた研究ではあったが、小麦の葉の長さや種子の数を淡々と調査したり、増え続けるアブラムシの駆除をしたりと、時に忍耐を要する調査もあった。「今日は観察を休もうかな」と生徒の気持ちが折れそうなこともあったという。そんな時でも率先して作業を行い、研究を楽しむ馬場先生の姿に、生徒達の意識は変わっていった。「自分たちも楽しんでちゃんと育てないと!」部活動にはいつも人が集まり、低学年の生徒がアブラムシ駆除の道具を作ったり、高学年の生徒が研究をまとめたりと、得意分野を活かしながら共に学ぶ場が生まれた。ただ実験を楽しむ科学部から、目標を持って研究を楽しむ科学部への変化が徐々に起こっていった。

研究経験が生徒の成長を促す

 現在では他の生徒の興味から、新たな研究テーマが生まれ、成果を残している。その中の一つが冒頭の受賞を受けた「空気砲の円ではない穴から出る空気の形について」だ。空気砲の実験をしていた際、穴の形を変えても円の輪ができることに疑問をもった生徒達自らが研究を始めたのだ。詳細に観察した結果、円と穴の形が交互に繰り返されていること、なぜか右に回転していることを発見し、考察をまとめた。「小麦の栽培研究を一年間行った体験を通し、生徒達は論理的に物事を考え、コミュニケーションする力を身につけました。そして、これらの経験は日常生活やキャリア選択にも影響を与えていると感じています」と2人の先生は話す。生徒の“好き”から始まる挑戦の機会を切り拓き、生徒と共に楽しみながらも真剣に取り組むことで、生徒は自らに眠っていた道標を見つけていく。創立70年目の伝統校に新しい風が吹き始めた。

関連記事:「ゆめちから」栽培中 和歌山信愛中学校・高等学校 科学部

記者のコメント:百目木 幸枝

ゆめちからのプロジェクトでお伺いしているときから、「あたたかい学校だな」と感じていました。今回の取材を通してその意味がわかったような気がします。生徒にも当時の感想を伺い次のページにまとめましたので、ご覧ください。