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2016.05.16 冊子『someone』コンテンツ

見えなかった宇宙が 重力波で見えてくる

夜空を彩る星々,銀河や,時おり通り過ぎる彗星。人はさまざまな天体や天文現象を,光などの「電磁波」を観測することで見つけてきました。そして今,「重力波」を観測する技術を得た私たちは,まったく新しい宇宙の姿を見ることができるようになります。たとえば,まだ誰も見たことのないブラックホール。この存在を確かめられるようになるのです。2016年2月12日,世界で初めて「重力波」が観測されたというニュースが世界をにぎわせました。歴史的快挙ともいわれるこの発見は,宇宙観測に革新をもたらします。

13億年前,2つのブラックホールが衝突し,合体しました。その衝撃は宇宙空間にゆがみを生じさせ,まるで池に石を投げ込むとできる波紋のように,宇宙空間に広がっていきました。この空間のゆがみが,光の速度で波のように広がっていく現象を「重力波」と呼びます。今回,13億年かけて遠く離れた地球に届いたゆがみを,世界で初めてとらえることに成功したのです。

ブラックホールは巨大な質量をもっています。そのため,周辺の空間がゆがんでしまいます。すると,電磁波がブラックホールから出られないため,私たちがそれを観測することはできません。

一方,重力波は,ブラックホールが生まれる瞬間や移動する際に生じます。重力波をとらえられれば,ブラックホールが実際にそこに存在していることの証明につながります。将来的には,宇宙誕生の瞬間に起こったとされる,ビッグバンで生じた重力波もとらえられるかもしれないと期待されています。

重力波で起こる空間のゆがみは,長さの変化としてとらえられます。しかし,その変化は,長さ1 kmもの棒が,たった1000兆分の1 mm長くなったり短くなったりするくらい,極めてわずかなものなのです。これからは,宇宙からの小さなさざ波を感じることで,知りえなかった宇宙の真実を知ることができるかもしれません。

(文・戸金 悠)