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誰も見たことのない元素「ウンウントリウム」を自分の手でつくり出した人 森田 浩介

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森田 浩介 理化学研究所 仁科加速器研究センター 超重元素研究グループ グループディレクター

「水兵りーべぼくのふね—」。化学でおなじみの周期表だが右下に空欄があることを知っているだろうか? 周期表の113番115番117番118番はじつはまだ発見されていなかったのだ。しかし理化学研究所の森田浩介さんらは113番元素を発見し2015年12月アジアで初めて新元素に名前をつける権利が与えられる快挙を成し遂げた。

大きな装置で研究したい!

時計を分解したりロボットを自作したり子どもの頃からものづくりが大好きだった森田さん。研究分野を選んだきっかけは原子を加速させる「加速器」に魅力を感じたからだという。「大きな装置を使って実験してみたかった」の言葉の通り加速器は小部屋ひとつほどの大きさがあり自分の手で改良したり部品をつくったりできる。装置に自分の手を加えられることが楽しくてしかたがなかった。

森田さんに転機が訪れたのは理化学研究所に研究の場所を移し先輩研究者に「元素をつくらないか?」と誘われたときだった。そんなことが自分にできるのかと戸惑いも感じたが原子を研究していた森田さんは「周期表の空欄を自分で埋めたい」という想いから世界で最初に113番元素を見るべく研究に挑み始めた。

不安はないこの方法は正しいから大丈夫

「元素をつくる」とは2つの原子を衝突させまったく新しい原子をつくるということ。しかし原子はプラス電荷をもつ陽子と電荷をもたない中性子から成る「核」をもつため2つの原子を近づけてもプラス同士が反発し簡単には衝突させることができない。そこで加速器を使って原子を光速の10%(秒速約3万km)まで加速した上で衝突させ核を融合させる必要がある。森田さんは113番元素つまり陽子が113個の原子をつくることを目指して陽子数83のビスマスを標的に陽子数30の亜鉛ビームを1秒間に2.5兆個のペースで打ち込み続けた。

2004年7月23日ついにそのときが来た。113番元素が観測されたのだ。「感動して言葉が出ませんでした。からだが震えただ『来た……』と思った」。結果から見れば実験を開始してわずか10か月だったが毎日変化のない単調な日々が何か月何年もかかる覚悟で取り組んでいた。しかし「それほど不安はなかった」という。なぜなら108番や110番といったすでに発見されている原子をつくってみたところ短期間で続けて成功。正しい方法で進めているという自信をもっていた。「結果が出ないのは当たり前。でも必ず出る」。そう確信していた。

▲ウンウントリウムを観測した際の,原子が崩壊していく様子。(左)1回目・2回目の観測では4回のα崩壊とドブニウムの自発核分裂を観測した。(右)3回目の観測では6回のα崩壊を観測し,メンデレビウムになったことを確認した。 理化学研究所プレスリリースを参考に作成
▲ウンウントリウムを観測した際の,原子が崩壊していく様子。(左)1回目・2回目の観測では4回のα崩壊とドブニウムの自発核分裂を観測した。(右)3回目の観測では6回のα崩壊を観測し,メンデレビウムになったことを確認した。
理化学研究所プレスリリースを参考に作成

見えないものを証明する

目で見えない新元素が「できた」と証明するにはすでに知られている元素の情報を組み合わせて論理的に説明する必要がある。陽子数が多い原子は核を保てず陽子を2個ずつ放出し別の原子に変化する「α崩壊」を起こす。

113番の原子の場合陽子が113個あるので113→111→109→……と崩壊していくはずだ。111番や109番はすでに知られている元素のため何回のα崩壊を経てこれに変化したかがわかればもともとあった元素は113番であったことが証明される。

森田さんはこれまで3回113番元素をつくることに成功しており1回目と2回目では4回のα崩壊を経てドブニウム(105番)が観測された。逆算すると113番と一致する。そして研究開始から9年後3回目の作成では6回のα崩壊の後メンデレビウム(101番)に変化したことを観測した。2種類の観測結果が得られたことで113番元素ができていたことへの信頼性が格段に上がり正式に「発見」が認められた。じつは2回目の作成後も発見を申請していたが認定されなかった。今回113番元素の命名権が森田さんに与えられたのはデータに疑いがないと世界に認められた証でもあるのだ。

きれいな周期表は壊したい

113番元素と同時に115番117番118番元素は海外のチームによって発見認定された。これで周期表の7周期目までのすべての元素が出そろった。「きれいな周期表ができた。今度はこのきれいな周期表をぶち壊したいですね」。森田さんはまったく新しい「8周期目」の新元素発見に挑むつもりだ。「今の周期表が118番までなのは人が扱える最も大きな原子が98番であることさらに20番には核の「のり」の役割をする中性子をたくさんもっているものが見つかっているから。98+20で118番までは比較的つくりやすいともいえる。逆に119番からはまったく新しい技術が必要になりますがアイデアは見えてきている」と森田さんは自信をのぞかせる。

ものづくり大好き少年の「つくりたい」という想いがこれからも世界に存在しない新元素をつくり出すかもしれない。 (文・戸金 悠)

森田 浩介(もりた こうすけ)プロフィール

1984年,九州大学理学研究科物理学専攻博士後期課程満期退学。同年より,理化学研究所サイクロトロン研究室に所属。1993年,九州大学にて博士(理学)を取得。2006年より現職。

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