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将棋プログラムが、人間とコンピュータの未来を指し示す 山本 一成

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山本 一成 HEROZ株式会社

コンピュータで何かしてみたい。そう思い立ったHEROZの山本一成さんは、趣味だった将棋のコンピュータプログラムの開発を始めた。「ponanza」と名付けられた将棋プログラムは人工知能として進化を続け、ついには世界で初めてプロ棋士に勝利するまでに至った。その開発の中で見えてきたのは、人間とコンピュータの未来のかかわり方だった。

人間の「知恵」を言葉にするのは難しい

「こんなに速く計算ができるくせに、こんなにも弱いのか」。大学時代、最初の将棋プログラムをつくったとき、山本さんは衝撃を受けた。数学の知識を活かして、将棋のルールや戦法をプログラムにしてみたが、それは人間が歩と王の駒を使うだけで勝ててしまうほどに弱かった。そこで、自分の将棋の経験をコンピュータに教えようと考えたとき、あることに気づいた。将棋のルールといった「知識」を教えることは簡単なのに、戦う中で学んできた直感的な「知恵」を言葉にして、プログラムとして書き込むことはとても難しいのだ。ならば、コンピュータ自身が学習して知恵を身につければいい。そう考えた山本さんは、プログラムに「機械学習」の方法を書き加えることにした。

プロ棋士の手を真似して学習する

機械学習とは、人間が「学習のしかた」をプログラムとしてコンピュータに教え、コンピュータに正しい学習結果を以後のお手本としてさらに学ばせていく中で、「知恵」を身につけさせる方法だ。

将棋プログラムに戦い方を教えるうえで、山本さんは「プロ棋士の頭の中を見ることはできないが、打った手による結果は見える」と考えた。そこで、プロ棋士が打った手やその順番を記録した将棋の「棋譜」をお手本とした機械学習をさせることにした。まず駒の種類と位置に点数を割り振る。コンピュータが打った手とお手本との点数の差を表し、数列と微分を使った関数に代入し、点差を小さくすることでお手本に近づけていくという学習方法をコンピュータにプログラムした。同じように、「この手を打ったときの点数は低いが、そのあとの一手で高い点数になるからこれはいい手だ」という読みをコンピュータにさせることで、次の手を探索する方法も学習させた。これにより、独自の知恵をもつ将棋プログラム「ponanza」が確立されていった。

人工知能が作者の理解を超えていく

機械学習によって、人間と同じように戦える将棋プログラムをつくることはできたが、プロ棋士にも勝る強さを得るためにはお手本が少なすぎる。そう考えた山本さんは、自分で新しい棋譜をつくり出す機能をponanzaに組み込むことで、80億局面もの棋譜を使って学習するponanzaをつくり出した。プロ棋士の棋譜は3〜5万程度と言われていることから、その数の多さがわかる。棋譜の多さ、つまり経験値の多さから、ponanzaはプロの棋士をも圧倒する強さをもつようになった。

さらに、山本さんは自分で関数の数値を少しずつ書き換えては、現行のponanzaと戦わせることをくり返し、より強い将棋プログラムを探していった。ひとつの数値を書きえるごとに3000回も戦わせるという。「ちょっと改良して、少しでも強ければ採用する。そのくり返しの結果、ponanzaは私の将棋の理解を超えた」と山本さんはいう。

ponanzaのプログラムに使われている関数を解説する山本さん。
ponanzaのプログラムに使われている関数を解説する山本さん。

人間とコンピュータの関わり方をつくる

プロの持つ職人芸といった言葉にできない「知恵」を、今やコンピュータは機械学習によって手に入れることができる。さらに、コンピュータが人よりも得意とする記憶や計算などの性能を強化することで、より高性能な人工知能がつくられていくだろう。すると、人工知能の進化が、いずれ人間をかすと考える人が出てくるかもしれない。しかし、同じルールのもとで、人間と人工知能が対等に戦えるボードゲームだからこそ気づけることもあると山本さんはいう。「ときにコンピュータは人間の固定概念を超えた意味不明な手を出すことがある。でも、だからこそ人間はコンピュータの手から意味を見い出し、新しい概念をつくることができる」。コンピュータ将棋は、人間とコンピュータがどうかかわっていくのか、その未来を示しているのかもしれない。

(文・今井 瑞貴)

山本 一成(やまもと いっせい) プロフィール

東京大学卒業、同大学大学院総合文化研究科修了。学部時代から将棋プログラムponanzaの開発を始める。改良の結果、2013年の第2回将棋電王戦にて、ponanzaは世界で初めてプロ棋士に勝利した将棋プログラムとなる。修了後は将棋対戦ソフトの開発を行う HEROZ株式会社に入社。将棋は小学生の頃から始め、自身もアマチュア五段の腕前を持っている。

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