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2016.06.16 冊子『someone』コンテンツ

小鳥のさえずりには「文法」があった

赤ちゃんのとき,自分がどんな言葉をしゃべっていたか覚えている人はいますか? 人間は,最初は「コッコ」など簡単な単語を口にするだけですが,2〜3歳になる頃には「鳥さんが鳴いていたよ」と文章をしゃべるようになります。人間の脳には,言語野と呼ばれる場所があり,言葉の音や意味を理解し,成長につれて文法など高度な学習ができるようになるのです。

会話ができるのは,じつは人間だけではありません。それは,私たちの身近に住む可愛らしい小鳥,シジュウカラです。彼らは,群れの仲間と一緒にいるときに,「ピーツピ(警戒しろ)」「ヂヂヂヂ(集まれ)」といった単語にあたる,さまざまな鳴き声を使います。なんとその数は175種類以上もあることがわかっています。

さらに,野生のシジュウカラをよく観察してみると,ときに2種類の鳴き声を組み合わせて鳴くことがあります。不思議に思った研究者が森の中に置いたスピーカーから鳴き声を出し,彼らの様子をくわしく調べてみました。すると,「ピーツピ」では周りを警戒するだけ,「ヂヂヂヂ」では音源に向かって集まるだけでしたが,「ピーツピ・ヂヂヂヂ」では,警戒しながら集まる,という複合的な行動を示しました。その一方で,語順を入れえた「ヂヂヂヂ・ピーツピ」では反応しませんでした。つまり,シジュウカラは「警戒しろ」「集まれ」という2つの単語を組み合わせた文を理解し,かつ語順を区別する「文法」までもっていたのです。ここまで高い言語能力を持つ動物が見つかったのは初めてでした。

シジュウカラの仲間には,人間の言語野のように,鳴き声を学習する「ソングシステム」と呼ばれる脳のしくみが備わっているため,さまざまな鳴き声を覚えることができると考えられています。単純な鳴き声しかもたないニワトリやハトには,こうした脳のしくみはありません。ひょっとすると数千年後,シジュウカラがもっと進化したら,人間と同じくらい高度な言葉を身につけているのかもしれません。 (文・塚越 光)

*英語論文に挑戦!

シジュウカラの文章を使った会話を発見した論文です。気になる人は検索して見てみよう!
著者:総合研究大学院大学 先導科学研究科 鈴木 俊貴さん 他2名
雑誌名:Nature Communications (2016年)
論文タイトル:Experimental evidence for compositional syntax in bird calls

本記事は、中高生向けサイエンス誌『someone』より転載したものです。
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