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2016.06.30 冊子『someone』コンテンツ

生活に溶け込むロボットを、チームの技術でつくり出す 近藤 那央

高校の卒業研究でペンギンロボットをつくるために集まったメンバーは「もっといいものをつくりたい」,その思いで卒業後も活動を続けることを決意した。いつかロボットと一緒に暮らす夢を実現するため,自分の興味をチームの夢にし,挑戦を続ける人がいる。

身近な疑問が開発のヒントに

2013年,東京工業大学附属科学技術高校の3年生だった近藤那央さんは悩んでいた。近藤さんがいる科学・技術科で出された卒業研究の課題でなにをつくるべきか。ネタを探しに,もともと好きだった水族館へふらっと足を向けると,目玉展示のペンギンに目が止まった。陸上でよちよちと不慣れに歩くペンギン。しかし,ひと先水の中に入ると,素早い動きで華麗に水を切って泳ぐ。「速い……。どうしてあんなに小さな翼でこんなにも速く泳げるんだろう」。そう思った近藤さんは,チームとともにペンギンロボットの製作を決意した。「水の中にもエンターテイメントを提供できるロボットがあったら楽しいんじゃないかと思った」と近藤さん。徹底的に本物のペンギンに似せたロボットの開発へ,挑戦が始まった。

ペンギンロボット誕生!

いざ制作に取りかかってみると,そもそもどうやってペンギンの水中の動きを再現したらいいのかわからなかった。生物の基礎的知識がなかったため,まずは本物をじっくり観察することから始めた。水族館の飼育員の方にお願いして,直接からだを触らせてもらったり,水中での動きを観察したりした。本物に近づけるため,動力にスクリューは使わない,翼のはばたきだけで泳ぐことができるロボットを目指した。課題には5万円という予算の制限があったため,安いクリアファイルやタッパーの容器,かたいゴム板などを駆使し,本物のペンギンを触りながら,翼のかたさや質感を近づけた。水に入れるためには,防水加工も必要だ。また,翼だけで速く泳がせるという最も重要なポイントを実現するため,翼を取り付ける角度を何度も調整し製作をくり返した。「からだの位置によって使う素材を変え,やわらかさを変えることが速さへの秘訣でした」と語る近藤さん。試行錯誤の果てについに完成をしたのが,ペンギンロボット「もるペン!」だ。

ペンギンロボット「もるペン!」。全長50 cm。水中での前進,旋回,潜水,浮上が可能。

ペンギンロボット「もるペン!」。全長50 cm。水中での前進,旋回,潜水,浮上が可能。

チームだからできることがある

もるペン!は完成後,水族館の協力も得てなんと本物のペンギンに混ざって泳ぐこともできた。しかし,同時に新しい課題も生まれた。ペンギンプールには水流があり,もるペン!はこれに押し流されてしまったのだ。もっと速く泳ぐ,もっと本物に似たペンギンロボットがつくりたい。そう考えたメンバーは高校卒業後も活動を続けることを決意した。そこで誕生したのが,チーム「TRYBOTS」だ。しかし,別々の大学に進学したメンバーが定期的に顔を合わせられる時間と場を設けることは大変だった。それでも近藤さんは,チームメンバーの力を信じていた。「自分にできないことも,彼らならできるんです」と近藤さんは言う。TRYBOTSは,機構の設計や全体構造の設計,電気系統,デザイン担当などそれぞれ自分の強みを活かしたメンバーで構成されている。全員が同じ目標に向かって着実に進んでいけるよう,近藤さんはチームが参加できるイベントを探しては,そのつど目標と締め切りを定め,チームがより力を発揮できる場をつくってきた。TRYBOTSをもっと大きくしたい。もっと強い組織にしたい。それが近藤さんの原動力だ。

自分たちの技術で世界にインパクトを

 「もるペン!には,本来ロボットに興味がないような人でも興味を持ってもらえる,ふしぎな力があるんです」。若い女性や子どもたちが楽しそうにもるペン!に触れる様子を見て,近藤さんは,人の生活に自然に溶け込むことができるロボットはどういうものだろうと考えるようになった。進学先の大学では,あえて工学部ではなく,文学,政治経済,アートなどさまざまな背景を持った人が集まり,世の中の問題を解決することを目指した学部を選んだという。「ただつくるだけでなく,使う人のことを考え,社会問題と結びついたロボットの開発がしたい」と近藤さんはいう。「TRYBOTSはこれから,自分たちの技術でたくさんの人が使いたい,欲しい,そう思えるものをつくっていきます」。当たり前のようにロボットと一緒に暮らしている,そんな未来をつくる人,近藤さんの挑戦はこれから始まる。

(文・上野 裕子)

近藤 那央(こんどう なお) プロフィール

2013年3月,東京工業大学付属科学技術高校 科学・技術科 システムデザイン・ロボット分野機械科卒業。卒業と同時に,生物の動きを成功に再現するロボットいきもの工房「TRYBOTS」を結成。代表としてペンギン型ロボットを開発する。2014年,慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部に入学。新世代の女の子を発掘するオーディション「ミスiD2015」受賞。