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2017.02.20 冊子『教育応援』コンテンツ

モノづくりの世界で活躍する 子どもを町工場から 浜野慶一

町工場のメッカ東京都墨田区が、危機に直面している。産業構造が変わり、1980年代には1万弱あった町工場が、現在およそ3千社まで減ってしまった。そのような逆風の中、子どもの教育に熱心に取り組む「板金屋」がある。それが浜野製作所だ。なぜあえて教育活動に取り組むのか。代表の浜野さんがその想いを語る。

工場の音が聞こえなくなった危機感

 浜野さんの若かりし頃、町工場はオープンだった。金属のプレスする音や削る音、油の匂い、そしてそこで働く技術をもった大人たちは、子どもたちにとって身近な存在だった。しかし時は流れ、住宅地が増え、騒音などの問題で工場の稼働は平日のみになり、音が漏れないように工場のシャッターは閉めっぱなしに。その結果、工場内では何が行われ、どんな人が働いているのか、近所に住む人でさえわからない状態になってしまった。それに加えて、産業構造の変化による町工場の減少。このままでは町工場は社会から孤立し、ものづくりは弱体化する一方だ。危機を感じた浜野さんが行ったことの1つが、土日の稼働していない工場で、ものづくりを魅力を子どもに伝える教育活動だった。

工作機械を使った本格的ものづくり教室

 浜野さんは、墨田区がキッザニア(仕事体験のアトラクション施設)と株式会社JTBコーポレートセールスが協働で行なった「アウトオブキッザニアinすみだ」に、金属加工のプロとして企画を提供した。東京スカイツリーの金属製立体モデル「メタルツリー」を2時間で作るプログラムだ。5年間で86回行い、430人が工場を訪れた。レーザーカッターなどの工作機械を使い、職人直伝の手仕事で金属を加工してツリーを完成させる。工場の大型機械を動かす時には、毎回子どもから歓声が上がる。「金属加工でのものづくりを通して子どもたちが、1枚の板から立体のタワーを作り上げるおもしろさを知り、普段何気なく使っている身の回りのモノが一つ一つ丁寧に作られていることを考えるきっかけになってもらえれば嬉しい」と浜野さんは熱く語る。

先端機械を使っている様子

町工場でグローカルな教育を実践

メタルツリー

 浜野さんは2014年に、ハードウエアのスタートアップを支援する拠点「Garage Sumida」を設立。台風発電のチャレナジー、コミュニケーションロボットOriHimeのオリィ研究所など、若手の開発者、技術者、起業家が入居し、独自のものづくりを通し事業化に挑戦する。今年7月には浜野さん自身がシンガポールに出向き町工場相談会を行い、9月には海外ベンチャーを墨田に集め工場見学ツアーを実施した。このように浜野さんのもとには日々、日本のみならずアジア全域からものづくり人材が集まり始めた。墨田の町工場というローカルな場所に海外の人々が集まるという、まさにグローカルな空間。この場所で子どもの教育を行う浜野製作所の取り組みは、日本の教育の目指すべき姿のひとつだろう。