躍進する生物部の裏にいる、博士コーチという存在 〜東京大学教育学部附属中等教育学校 生物部の外部指導員〜
サッカー部、野球部、ラグビー部、強い運動部の成長を支える影には必ず、教員以外の『コーチ』がいる。科学系にとってはあまり馴染みがないが、これまでになく研究活動が盛んな現在、部活の飛躍に『コーチ』が大きな役割を果たすこともできるのではないだろうか。
史上初の二年連続最優秀賞受賞
サイエンスキャッスル2016関東大会、最優秀賞は東京大学教育学部附属中等教育学校生物部の岸野さんによる「カエルの採餌行動実験」に贈られた。シンプルながらも、丁寧に行われた実験と、審査員からの質問に的確に答える岸野さんの対応に、審査員は一様に驚かされた。実は、前年も同じ部活に所属する生徒による、「植物の環境適応」に関する研究が最優秀賞に輝いている。大会ごとに1人だけに送られる最優秀賞、これまで14人が受賞しているが、同じ部活の生徒が手にしたのは初めてのことだった。躍進の秘密を聞いてみると、その裏には、彼らの研究を適切に指導する『コーチ』の存在があった。
日々研究のノウハウを提供する身近なコーチ
生物部のコーチを務めているのは、東京大学大学院博士1年の原田一貴さんだ。同校での教育実習をしたことがきっかけとなり、修士2年の時に、顧問の先生から『コーチ』就任の依頼を受けた。就任当初、大学と違い、設備がないことは想像していたものの、テストや行事などが多くあり、思った以上に時間も無いことに驚いたという。限られた状況の中で、どのようにすれば、生徒それぞれが自分の興味を深められ、かつ大学の研究者さえも一目置くような研究ができるのか?生徒とディスカッションを繰り返した。さらに文献検索、画像解析、統計など、大学レベルの研究で用いられる技術を教え、生徒が自力で研究を進められるよう環境を整えた。年齢が近い身近な大学院生との議論を通して、「研究」に関する理解を深めた生徒は次第に主体性を持って、積極的に実験や情報収集をするようになったという。そのようにして行われた研究は、中高生ならではのテーマ設定ながらも、研究者もうならせる丁寧で説得力のあるものとなった。
博士も成長する仕組み
「博士課程で研究しながら、中高生の研究を指導するのは大変ではないか?」と聞くと意外な答えが返ってきた。「限られた環境の中で行う生物部の指導は、自分がこの先、教授を目指す時に役立つ経験になると感じています」と原田さん。決して十分ではない環境下で、研究したいメンバーがいて、さらに結果を出さないといけない状況は、研究室立ち上げの状況に酷似する。自分で実験をするのではなく、生徒が実験した結果を見てディスカッションをすることも、教授が学生と行うことと同様だ。また必ずしも自分の専門でない部分を指導することで、自身の研究の幅が広がり、時には協力してくれる研究者のネットワークを築くことにもなる。『コーチ』の仕組みは、博士学生にとっても成長の場となりうるのだ。中高生と大学院生がともに研究を通して成長する『博士コーチ』が、これから最もホットな高大連携の形になっていくかもしれない。
取材協力:原田 一貴さん
東京大学大学院 博士課程1年 日本学術振興会特別研究員