「教員」と「研究者」で共創する、 未来の学び舎 大阪明星学園
「教員」と「研究者」で共創する、 未来の学び舎
カトリック系私立中高一貫の男子校である大阪明星学園は、来年で創立120年を迎える伝統校だ。今回、若手研究者向けの助成制度であるリバネス研究費の取り組みを活用して、学校現場を舞台に研究者と連携した教育研究をスタートさせる。プロジェクトの始動に先立ち、大阪明星学園理事長の馬込新吉とリバネス代表取締役社長の髙橋修一郎が学校教育の未来について語り合った。
渇望する体験を与えたい
髙橋 今回のプロジェクトでは教育現場に研究者のアイデアを取り入れるという挑戦をしていくわけですよね。学校にとっては異物とも言える研究者と交わる機会をつくることで、先生方が刺激を受け新しい動きが生まれると期待します。
馬込 そうですね。社会がダイナミックに変化している今、学校もそれに適応して変化するべきだと感じます。そのためには、軸になる理念や価値観はもち続けつつも、多様な立場や考え方をもつ相手を受け入れる姿勢が必要です。未来を担う生徒たちが、自らの存在意義をもって、しっかり人生を歩んでいける力を学校で養ってあげたいですね。
髙橋 私は最近アジアの大学を回る機会が多いのですが、そこの学生達に強く感じることがあります。それは、幸いにも教育を受ける機会を得て、技術を手にした彼らは、自国の発展や社会に貢献する意思を強くもっているということです。
馬込 はい。日本は教育水準の底上げには成功しましたが、その反面、大学受験のための知識の詰め込みに偏りすぎてしまったのかもしれません。インプットした知識を使って何を為すのか。そういった考えに至るには想像力を掻き立て、より良い未来を渇望する瞬間に直面することが必要なのではないでしょうか。
髙橋 確かに。私が出会ったインドの学生は藻類を使った空気清浄のアイデアを提唱していました。彼は世界で一番空気が汚いといわれるデリーの出身で、故郷の課題をなんとか解決しようとしているのです。
馬込 対照的に、日本は生活が豊かになったことで、子どもたちが逆境の中でもがいて、前に進む方法を模索するような体験が失われつつあるのではないでしょうか。これからの学校は、生徒らにそのような体験を与えられる場所になるべきです。
多様なアイデアを混ぜ合わせ、
課題を解決する
馬込 日本の生活は豊かですが、課題がないわけではありません。むしろ課題先進国です。でも教育が行き届いていて技術力もある。だからこそ、世界に先んじて、課題解決をしていかなくてはいけない。その突破口となり得る教育の原型を見たのが「サイエンスキャッスル」でした。
髙橋 2016年の関西大会は貴校を会場として実施しましたね。全国から研究活動を行う先生や中高生が総勢516名集まり、ディスカッションを行いました。中高生ならではの身近な研究テーマも多かった。
馬込 はい。同世代の研究者はもちろんですが、審査員や講演、ブース出展で来られていた大学やベンチャーの研究者に会えることも貴重な機会だと思います。彼らは互いに多様な考えや課題意識に触れ、ディスカッションを通して刺激し合っていたように思います。
髙橋 その後、シンガポール大会に挑戦したいという生徒も出てきたそうですね。多様なアイデアがぶつかり合うことは、新しい発想や視点を得るために効果的だと思います。
日本一、教育の仮説が集まる場所に
馬込 今回のプロジェクトでは、先生方が刺激を受ける機会になるはずです。研究者のみなさんには多様なアイデアを投げ込んで欲しいですね。先生方も「もっとこうすべき、こうなったらいい」という仮説をもっています。しかし、せっかくの仮説が検証されず、アイデアも足されないことが多い。
髙橋 両者が共に仮説を検証していくことができる仲間になって欲しいですね。目の前にいる子どもたちと接しながら、日々奮闘する先生がいるリアルな教育現場には研究のヒントもたくさん転がっているはずです。仮説検証のプロセスを先生と研究者が共有できる形が理想的です。
馬込 そのためには研究者には学校の現場を見てもらって理解を深め、先生方は自分の仮説をより具体化していく必要があるでしょう。明星学園を、先生以外も含めて、教育の仮説をもったいろんな人が集まってくる学校にしていきたい。このプロジェクトはその一歩目になるはずです。
大阪明星学園中学校・高等学校 理事長・校長
馬込新吉
まごめ・しんきち/大阪明星学園理事長・校長。1951年長崎県佐世保市生まれ。1971年カトリック修道会「マリア会」入会、1987年上智大学神学部を卒業、翌年カトリック司祭叙階。暁星学園(東京)、海星学園(長崎)を経て1995年に大阪明星学園の副校長に着任。2009年に学校長に就任し、2016年より理事長を兼任。「他者の痛みがわかるクリスチャンセンスを身につけた若者を育てること」を目標に、日々教育活動につとめている。
株式会社リバネス COO代表取締役社長
髙橋修一郎
たかはし・しゅういちろう/東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了博士(生命科学)。設立時からリバネスに参加。大学院修了後は東京大学教員として研究活動を続ける一方で、教材開発事業・研究開発事業の基盤を構築した。さらに独自の研究助成「リバネス研究費」や未活用研究アイデアのデータベース「L-RAD」のビジネスモデルを考案し、産業界・アカデミア・教育界を巻き込んだオープンイノベーション・プロジェクトを数多く仕掛ける。2010年より代表取締役に就任。3児の父。