微細藻類には様々な種類があります。シアノバクテリア(ラン藻)のほかにも遊走することができるユーグレナ(ミドリムシ)、円石藻のように炭酸カルシウムの殻をまとったものまであります。
顕微鏡を使うことで、微細藻類の世界を垣間見ることができます。
現在、これら藻類は多様な分野で注目されており、食品やバイオ燃料を創り出そうとする企業も出てきました。200年近く行われてきた藻類の研究が、現在、ようやく産業に活かされつつあるのはとても興味深いことでしょう。
海や湖沼、河川はもちろん、森の中や土壌など様々な場所に存在しており、それぞれが環境に合わせて生活しています。意外な場所から藻類を見つけ出すこともできるかもしれません。
藻類は非常に種類が多く、まだ未知のものもたくさん存在していると考えられています。新規の藻類を探し出し、それが既存の藻類とどのように似ているのか、あるいは違いがあるのかを調べるのも楽しいでしょう。
発展的な研究として、食品としての機能制成分や、バイオ燃料としての油分を多くつくり出す藻類を探すこともできるかもしれません。産業に直結するテーマとして本格的な研究を進めることも可能です。
高田高校がある岩手県陸前高田市は、2011年3月11日の東日本大震災で甚大な被害を受けた街の1 つで、多くの建物が全壊しました。高田高校も例外ではなく、3階の天井まで届くほどの巨大な津波が押し寄せました。震災から3 年以上が経過した現在も、生徒たちは陸前高田市内の校舎に戻ることは許されておらず、隣の大船渡市にある仮校舎にバスで通う日々を過ごしています。
しかし高田高校生たちはこの3 年の間に前へ進むためのさまざまな活動に取り組んできました。その1 つがこの研究活動です。多くのものを奪っていった津波ですが、もしかしたら遠洋の微生物や、地中や海中で長く眠っていた微生物が、津波にのって高田の地に到来している可能性があります。そのなかでも、近年注目されている「光合成を行いバイオ燃料を貯蔵する小さな藻類」つまり「バイオ燃料生産藻」にターゲットをしぼり、陸前高田市周辺の土地や沿岸の海水中から、探し出す研究を始めました。
2012年から始まったこの研究は今年で3年目。第一期の研究者たちは、大学や専門学校に進学し、現在は第二期、第三期の生徒が研究を引き継いでいます。この微生物が津波で壊滅した街の復興に貢献することを夢見て、日々研究に取り組んでいます。
プロジェクトが動き出したのは2012年の9月。研究を体験できる実験教室と連携研究者の慶應義塾大学伊藤先生による藻類の研究についての講演が行われ、そこで「実験が面白い。もっとやりたい」、「研究にチャレンジしたい」と感じた仲間が集まり、研究がスタートしました。
1年目に集まったのは、当時2年生だった女子6 人。自分たちを「チーム『も』」と名付けて、受験勉強が本格化するまでのおよそ1年間、研究を進めていました。もともと部活動ではないため、活動時間や理科室の使い方、実験の進め方、年間のスケジュールなど、すべて自分たちで決めなくてはいけませんでした。またテストや補講との両立も大変な状況のなかでの研究活動でした。
最初に取り組んだのは、被災した土壌や海水などのサンプリングです。2012年12月、先生やチームメンバーが手分けをして、陸前高田市や大船渡市の29か所の土壌や海水を採取しました。街にはまだ、被災の爪痕が残っていて、仕分けされたがれきや被災した建物のいくつかが残されていました。今はもう整地が進み、なくなってしまった旧高田高校の校舎や、高田病院のそばでもサンプリングを行いました。
次にそれらを寒天培地にまき、微細藻類が生えてくるのを待ちました。サンプリングや寒天培地へまく実験が成功していると、コロニーという微生物が丸くかたまりになったものが観察できます。丸くて緑色をしていて一見同じように見えるコロニーでも、顕微鏡で観察するとかたちや内部構造などに違いがあり、いろいろと発見がありとても面白いです。プレートに生えた緑色のコロニーは、それぞれ別な新しい寒天培地に移し、最終的には91株の単離に成功しました。
単離した91株がどんな種かを判定するためには、顕微鏡観察だけでは難しく、藻類のDNAを取り出して調べる必要があります。しかしここで、大変な困難が待ち受けていました。種を特定するためには、藻類からDNAを抽出した後にPCRという実験を行い、調べたい部分のDNAを増幅する必要があるのですが、すべてのサンプルでPCRに失敗してしまったのです。なかなか結果が出ず、苦しい時期でした。
ここで、研究の方針を大きく転換し、DNAに着目する実験を中止し、まずは91株のうち、寒天培地上で増殖が速いもの、高密度に増殖するものにしぼって研究を進めることにしました。バイオ燃料を使って自動車を動かしたり発電したりするためには、膨大な量の藻類が必要になるため、藻類の増殖スピードを調べることも研究の大切なポイントだったのです。そこで、増殖が速い8株を選び出し、それぞれオイルを貯蔵する能力を調べたところ、細胞内に油滴と思われる構造をもつ株が、見事1つ見つかりました。この結果が出たのが、2013年の夏。つまりメンバーにとっては受験の夏でした。タイムリミットぎりぎりに、成果を出すことができたのです。実験は大変で、結果が出ないと苦しいこともありますが、成果がでるととてもうれしいものです。
この研究成果は今、第二期、第三期のメンバー「チーム『も』+one」に引き継がれました。この成果を研究発表会や農芸化学会など、さまざまな場所で発表していますが、興味をもってくださる研究者の方も多くいます。現在、オイルを貯蔵できる株をいかに早く増殖させるかについて着目し、栄養塩類の濃度を変化させる実験を進めています。私たちは今も、「震災で変わり果てた姿になってしまった自分たちの高田に対して何かできないか」、そういう想いで研究を進めています。
陸前高田市・大船渡市周辺の土壌、および海水等からサンプリングを行い、藻類を単離しました。その後、生育のよい株を選抜し、油滴を貯蔵するかどうかを調べました。
※本記事は、2014年3月作成の東北バイオ教育プロジェクトの研究紹介誌に掲載されたものです。東北バイオ教育プロジェクトは、東北被災地支援のための教育プログラムとして協和発酵キリン株式会社と株式会社リバネスが共同で実施したものです。