SBN183_細胞内の運動スピードが 植物の大きさを決定する?
理科室の窓辺の水槽からオオカナダモを少しちぎって、顕微鏡でのぞいてみてください。葉緑体のつぶつぶがゆっくりと動いているのが観察できます。これは原形質流動と呼ばれ、植物細胞内で物質を移動させる仕組みです。葉緑体などの細胞内小器官に結合したミオシンタンパク質が、細胞内に張り巡らされた繊維状のタンパク質アクチンの上を、まるで人が歩くように移動します。動物細胞内でも物質を移動させるよく似た仕組みがありますが、植物が持つミオシンXIは1秒間に100歩も動き、動物のミオシンVと比べて10倍以上速く動くことが知られています。一見、動くことができない植物ですが、細胞の中では動物よりずっと活発な運動が行われているのです。原形質流動は200年以上も前から知られている現象ですが、詳しい役割についてはいまだによくわかっておらず、研究が進められています。
最近の研究から、原形質流動を止めると植物の生育が悪くなることがわかってきました。理化学研究所の富永氏らは、原形質流動のスピードが植物の生育に影響を与えていると考え、この仮説を検証しました。ここで用いられたのが生物界最速の移動速度を持つシャジクモミオシンXIです。ミオシンは複数のタンパク質が結合した複合体です。シロイヌナズナのミオシンのうち、移動速度を決める部分を、シャジクモミオシンXIのものと交換すると、細胞が大きくなり、それに伴い植物体も大きくなりました。反対に、移動速度の遅いヒトミオシンVのものと交換するとそれらのサイズは小さくなったのです。このことから、ミオシンの移動速度、すなわち原形質流動の速度は植物の細胞の大きさを決める大事な要素であることがわかりました。
植物の生育を制御するための研究は、食物やバイオエネルギー生産の向上にもつながるため、光合成や細胞分裂の速さなど、様々な視点から進められているホットな分野です。今回の発見から、植物の成長をコントロールする新しい方法が生まれるかもしれません。植物の生命活動の中には、私たちに恩恵を与えてくれる魅力的な仕組みがまだまだたくさん隠されているに違いありません。
参考: http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131112/index.html
記者コメント:
植物の細胞の中をのぞいていると、一見静的な植物の生命活動を支えるべく、見えない所でめまぐるしく絶えず働く分子の世界が想像されます。
(中嶋香織)
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