新着情報

  • HOME
  • 新着情報一覧
  • テクノロジーの原点はNatureの観察から 〜バイオミメティクスから学ぶ未来のヒント〜
2016.07.10 冊子『教育応援』コンテンツ

テクノロジーの原点はNatureの観察から 〜バイオミメティクスから学ぶ未来のヒント〜

 ハングライダー、チェーンソー、マジックテープ、ナイロン、新幹線、痛くない注射針…これらに共通することは、すべて生き物の性質をまねて生み出された製品だということです。私たちは古くから自然界から様々なことを学び、農業、道具、薬など生活に活かしてきました。近年は観察技術や製造技術の発展により、10年20年前に基礎研究レベルであったものが、実際に技術になり、製品化する例が増えてきています。研究内容も広がっており、2000年から10年間で学術論文は5倍に増えています。変化の激しい世界で新しいものを生み出すためのヒントが生き物の中にはたくさん眠っており、研究の伸びしろもとても広いのです。今回は、生き物から学ぶものづくり「バイオミメティクス」の研究開発の今を紹介します。

バイオミメティクスとは

 バイオミメティクスとはbio(生き物)、mine(パントマイム)、mimic(模倣の)を組み合わせた造語で1950年代後半に米国の神経生理学者のオットー・シュミット氏によって提唱された分野で「生体模倣技術」と訳されています。38億年の歴史をもつ生き物を観察し、彼らの持つしくみを解明し、それを技術応用することで様々な課題を解決しようと研究されています。近年研究開発が進められ、世界ではドイツが国際標準を創るなどして先行していますが、国内でも基礎研究だけでなく、試作品や製品が増えてきています(表1)。これらが実現した技術背景には、生体の微細構造を観察する電子顕微鏡技術が欠かせません。そして、2013年にそのブレークスルーがまさに”バイオミメティクス”を利用して浜松医科大学の針山先生によってもたらされました。

表1:研究開発、製品化が進められているバイオミメティクスの例(国内)

生きたまま真空の中で観察できる”スーツ”

 電子顕微鏡は通常の光学顕微鏡が捉える可視光より短い波長である電子を使うことによって、ナノメートル単位の精密な構造を観察することができます。特に、走査型顕微鏡は物体の表面をなぞるように電子が走査されて観察されるため、立体的な像を作ることができます。しかし、観察する場所を真空状態にする必要があるため、生きた状態では体内の水分が蒸発して潰れてしまうという問題がありました。そのため、電子顕微鏡では化学処理で固定化された死んだ生物しか観察できなかったのです。しかし、2013年バイオミメティクスを研究している浜松医科大学の針山教授らが、ショウジョウバエの幼虫を生きたまま化学処理をせず電子顕微鏡で観察したところ、なんと、ショウジョウバエの幼虫を動いたまま観ることができたのです。なぜ、真空状態でも死ななかったのでしょうか?その理由を詳細に研究しました。その結果、幼虫の表面に50〜100nmの薄い粘性のある細胞外膜ができ、宇宙服のように乾燥を防いでいることが分かったのです。それはまるで、ナノサイズの頑丈なスーツを着ているかのようだったので、「ナノスーツ」と名づけました。針山教授らの研究はそこで終わりませんでした。ショウジョウバエのこの仕組みを他の生物の観察にも応用できないかと考えたのです。ナノスーツの成分に近いものを調べてみたところ、食品添加物の界面活性剤(Tween20)に行き当たりました。実際に界面活性剤で様々な生物をコーティングし、薄膜にするための処理をした後に電子顕微鏡で観察したところ、多くの生物を生きた状態でナノレベルで観ることに成功しました。この「ナノスーツ」の発見により、昆虫の外骨格、動物細胞、植物の花弁、などなど…様々な生物の微細な構造を生きたままの形で観察することができるため、さらなるバイオミメティクスの発展に寄与すると期待されています。

生き物の観察は未来を創るヒント

 バイオミメティクスの発見は”生き物の観察”からスタートしているのにほかなりません。古くは鳥の飛ぶ姿からグライダーが発見されているように、目で見て原理を理解し、実際に応用することで、その能力を私たちも得ることができるのです。最近では生き物をより良く観察する器具が中高生でも手に入る世の中になってきました。顕微鏡や高速度カメラなどの機器が家庭用に販売されたり、大学も積極的に中高生の研究を支援するしくみが増えてきています(「課題研究の相談窓口」参照)。2016年2月には早稲田本庄高等学院の当時の高校生4名が桑の葉からプラント−オパールと呼ばれる年代測定に利用できるミクロな宝石を発見して、オランダの論文誌に掲載される例もあります。生物には新たな技術がまだまだたくさん眠っているはずです。これから、私たち人間が持続的に発展していくヒントは身近な生物の中にあるのかもしれません。そして、それを見つけるのは、好奇心を持った次世代の研究者なのでしょう。

バイオミメティクスが学べる場所

TEPIA先端技術館

入口のメイン展示のテーマが「バイオミメティクス」
開館時間:9:00〜18:00(月曜休館)
    所:〒107-0061 東京都港区北青山2-8-44(JR銀座線外苑前駅下車4分)
H      P:https://www.tepia.jp/

浜松科学館

夏の特別展「生き物から学ぼう!」展〜自然に隠されたものづくりの宝を探せ!
開館時間:9:30〜17:00
    所:〒430-0923 静岡県浜松市中区北寺島町256番地の3(JR浜松駅下車徒歩7分)
H      P:http://www.hamamatsu-kagakukan.jp/