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2016.05.25 冊子『someone』コンテンツ

水素が社会を変える 三部 敏宏

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次世代のエネルギー源として期待されている水素。なぜ,水素が注目されているのでしょうか。それは,化石燃料に依存したエネルギー社会の問題が,エネルギーの源を化石燃料から「水素」に置きえることで解決できるからです。今,「エネルギー社会」は革命の時を迎えようとしています。

これまでのエネルギー社会

約50万年前,火の利用で人とエネルギーの関係が始まり,人類はエネルギーの使用量に比例して行動範囲を広げ,生活を豊かにしてきました。現在の日本では化石燃料を原料にした火力発電によって,コンセントにつなげばいつでも電気を使える便利な生活がある一方,地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出,化石燃料の枯渇,電気をつくる場所と使う場所が離れていることによる送電ロスなど,課題があることも事実です。

日本で排出される二酸化炭素の量は,年間13億1,100万トン。その14.8%にあたる1億8,612万トンは車から排出されています(※1)。自動車,バイク,耕うん機など年間約3,000万機という世界で最も多くのエンジンを世に送り出している本田技研工業株式会社の三部敏宏さんは「大気汚染や,二酸化炭素ガス排出による地球温暖化といったモビリティが引き起こした問題を解決するのは,Hondaの使命です」と言います。

水素をエネルギーにする究極のエコカー

これらの課題を解決するために,1990年代から,携帯電話のように車をコンセントで充電することで走る電気自動車が身近に出回るようになりました。しかし,電気はめるのが難しく,つくったら即使わなければならないため,1回の充電で走れる距離がどうしてもガソリン車に劣ってしまいます。

そこで,注目されているエネルギーが「水素」です。周期表の一番左上に位置する水素は,一番小さく,軽い原子です。臭いも色もなく,あまり存在を主張しませんが,じつは,この世界に最も豊富に存在しています。この水素から,マイナスの電気を帯びた電子を取り出し,プラスの方向に流すことで電気を生み出すことができます。しかも,電子を取られた水素は,空気中の酸素とくっつくことで水になるので,電気をつくり出しても,地球温暖化の原因になる二酸化炭素を排出しません。また,水素であれば,電気が苦手な大量,長期保管ができるので,水素と酸素を化学反応させ,発生した電気でモーターを回して走る水素燃料電池自動車は,地球にやさしいだけでなく,1回の水素補給でガソリン車と同じだけの距離を走ることができます。

つくる・つかう・つながる

しかし,水素をつくるのに,二酸化炭素が発生していたら意味がありません。だから,Hondaでは,水素をつくるところから取り組み,再生可能エネルギーを電源として,水道水から水素をつくり出す「スマート水素ステーション」の開発にも成功しました。水素をつくり,電気に変えて車を走らせる。でも,車は24時間365日走っているわけではありません。そこで,車でつくった電気を家電などにつなぐ「パワーエクスポーター」を活用します。この流れがあれば,車だけでなく,生活に関わるすべての電気を水素でまかなうこともできます。

電気を使って水素をつくり,水素からまた電気をつくる,一見無駄に感じるでしょうが,電気を溜めること,運ぶことができます。必要なときに必要な分だけ電気をつくる地産池消のエネルギー社会が見えてきたのです。

子どもたちに青空を

「私たちはまさに今,大きな変革期の中にいます」と三部さんは語ります。ガソリン車が生まれてからじつに100年以上,車は基本的な構造を変えてきませんでした。しかし今,車の変革とともに,新たなエネルギー社会への第一歩を踏み出そうとしています。まったく新しい価値を世の中に打ち出していかなければなりません。「日本は水素で世界をリードしていくことができる。新しい科学技術が世の中に定着するかどうかの勝負です。未来の子どもたちに青空を残すためにも,今,私たちは長い人間の歴史の中でとても重要な時期にいるのです。ワクワクしますよ」。そう目を細める三部さんが見ているのは,そう遠くはない,地球と完全に共生しているクリーンな世界です。(Presented by Honda)

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※1)国土交通省による2013年度
「運輸部門における二酸化炭素排出量(内訳)」より

(文・上野 裕子)

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